- 陽之 石田
ブロックチェーンとデジタル政府
デジタル庁が何かと話題の昨今ですが、そんな中でブロックチェーン技術も俄かに盛り上がっている感じもあります。なぜ電算化が始まってもはや半世紀もたち、インターネットの登場から20年経過した今でも重要な文書や手続きがデジタル化されてこなかったのか。
そのことから考えてみると、何が必要なのかが理解できてくると思います。
今回は、デジタル政府を実現するにあたって、ブロックチェーンにはどんな役割が期待されているのかという点についてお話しします。
デジタル化を難しくしている2つの論点
なぜ今まで行政の手続がデジタル化されてこなかったのか。これには2つの論点があります。一つは唯一性の担保の問題、そしてもう一つはIDの問題です。
文書をデジタル化した場合、それはただ保管しているだけであればいつでも複製や修正が可能になります。メールでファイルを添付して送ったことがあると思いますが、この行為は複製をして送付していることと同義です。そんな中で、この文書が正しいと言える根拠がなく、文書の管理は混乱を招いてしまいます。また、誰がその文書を作成したのか、だれが承認したのかという情報も手続きには重要な情報ですが、デジタル上の文書の作成者を確実に特定することは容易ではありません。そんなことから、長らくこの問題は「紙と印鑑の方が確実である」という理由で放置されてきたとも言えます。
しかし、ブロックチェーンの登場以前にも、電子署名という方法は確立されており、電子署名を用いれば、2拠点間で送付した文書が間違いの無いものであるということを検証することが可能となり、実際にこれは不動産登記や商業登記、その他の手続で実際に実用化されています。
電子署名をするためには署名をするためのマシンが必要ですが、それを確かにその人が操作しているのかという問題は残ります。本人確認の問題です。本人確認というのは、人間という物理的なものとデジタルを完全に一致させるという意味では非常に難しく、生体認証の技術が広く広まったとしてもさらにそれを欺く技術が出てきたりといたちごっこの状態でもあります。
第三者証明機関の役割
さらに、電子的に証明するということをする場合、証明する第三者機関が必要になります。当事者間だけでは言った言わないになってしまうからです。リアルな場での第三者機関として有名なものが公証役場です。公証役場では、その文書の内容とそれを確認した日付(確定日付)が付されて、公証人が第三者としてその書面の存在を証明するという仕組みです。
電子化した場合、この公証役場のような存在を電子的に実現しなければなりません。これを中央集権的にどこかが担う場合、その期間が永続することが前提になります。途中で倒産したり、サーバーの電源を全部落としてしまったり、ハードディスクの中身を全部消してしまっては信頼性がありません。
永続する第三者機関の仕組みが欲しい!
記録しているサーバがデータの破損やサーバダウンのリスクが無く、さらにサーバー内の情報の改ざんもできないというような仕組みができれば、その情報は信頼に足りるものになります。例えばそこに書かれた数字は信頼できる数字として2者間での取引にも利用できる程度の信頼性を持つことができるようになります。
だんだん、近づいてきました。そうです。仮想通貨というのは、信頼できる第三者機関としてのロバスト性(堅牢性)、改ざん耐性を持つことで初めて成り立つということで、これを実現したのがブロックチェーンという技術なのです。
ブロックチェーン以前にも、ハッシュ値を連ねて改ざん耐性を持たせた仕組みは考案されていましたが、最終的にその情報が正しいかどうかという「公証」(おおやけに見せて第三者が検証できるようにすること)は例えば信頼できる新聞に掲載するといった方法をとっていたのです。
ブロックチェーンの本質とは
ブロックチェーン技術の本質とは、「第三者が検証できる形で情報を記録し」、「この第三者の検証機関が永続し」「改ざんされないという信頼性がある」仕組みであるということが言えます。このことを踏まえて、ブロックチェーン技術に何ができるのか、そして何ができないのかを考える必要があります。
このブロックチェーンの本質を鑑みても、デジタル政府の実現のためにブロックチェーン技術が果たす役割は小さくないのかもしれません。文書の管理、手続きプロセスから、IDの記録や各種証明の発行まで、ブロックチェーンが第三者機関として機能することで、信頼に足る電子政府の実現につながるのではないでしょうか。
今回のデジタル庁の新設により、より便利でスマートな政府が実現し、人間がより人間らしい生活ができる国が実現することを願っていますし、少しでも貢献したいと思います。